短歌で随筆

一日一首、紹介&雑感。『フリックでコラム』の副ブログです。

2021年03月

うつくしいかずかぎりないまぼろしをゑがく娘にむかふさびしさ。/西出朝風

夢見る少女に対峙する作者。自身は既に失ってしまった純真さをそこに見て、複雑な気持ちを吐露している。

ひらがな短歌の独特な味わいが生きている。句点で締めているのも珍しく、おもしろい短歌である。

時ありて花ももみぢもひとさかりあはれにつきのいつもかはらぬ/藤原為子

桜も紅葉も一時の盛りにすぎないが、月はいつも変わらずそこにあるものだ。

無常の世にあって、不変である月に対する驚きを歌う。

風景ではなしに、無常観から桜、紅葉と月を対比させているのは珍しい。当たり前のことを歌っているようだが、当たり前を歌うのも技術なのだ。

生の終わりに死のあるならず死のありて生はあるなり生きざらめやも/橋本喜典

生の終わりに死があるのではなく、死が基本の世界に奇跡的な生がある、だから生きねば。

生きるとは答えのないものであるけれども、こうしたポジティブな考え方は良いものである。

作者は大病を経てこの境地に行き着いたとか。生きることの奇跡を感じていたいものだ。

火と水と浪と炎を分けて呼ぶ誓ひの舟は南無阿弥陀仏/他阿

どこか鬼滅っぽさがある。

すべてを乗り越えるおまじない。

泣くおまえ抱けば髪に降る雪のこんこんとわが腕かいなに眠れ/佐佐木幸綱

こんこんというオノマトペが、降る雪と眠る様子の二つに掛かっている。

映画のワンシーンを止めおいたかのような美しい描写だ。

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