短歌で随筆

一日一首、紹介&雑感。『フリックでコラム』の副ブログです。

2020年12月

また夢になると言われても今日だけは飲まずにいられぬ大晦日かな/しゅろ


良い酒に良い料理を揃えた。今日飲まずしていつ飲むのだ。

また夢になるといけねぇ、は元ネタがある。今日はそれを聴きながら酒を飲もうかな。

ほのぼのと愛もつ時に驚きて別れきつ何も絆となるな/富小路禎子

独身を貫いた作者。

愛に対する複雑な心境が、読む人に深みを感じさせる。

本当は愛を求めていたのかもしれない、そんな自分に気が付きながら、突き放すような物言いに哀愁すら感じる。

世の中は鏡にうつるかげにあれやあるにもあらずなきにもあらず/源実朝

世の中は鏡に映る影なのだろうか。あると思えばないようだし、ないかと思えばそうとも言い切れない。

物事に対して達観しているかのような描写だ。シェイクスピア的などちらともとれる表現を既にやっていたのがすごい。

若くして将軍となった稀有な運命を背負った作者。達観しているというより、達観せざるを得なかったのだろう。

銀杏を炒りて気付きしその殻の堅きを誰たれに伝えんとせむ/しゅろ

人生で初めてぎんなんを買ってみた。

コンビニで売っているおつまみの「揚げぎんなん」が好きで、頻繁に食べていたのだが、自分で生のぎんなんを買ったことはなかった。

料理するようになってから行き始めた地元の八百屋に、ぎんなんがまとめ売りされていたのを見て反射的に買ったもの。最近見た動画の影響もある。


学生時代、イチョウ並木で知られるとある学校に通っていたので、ぎんなんは身近だったはずなのだが、今になってこれほど食べたり料理したりするようになるとは思わなかった。

ぎんなんといえば、臭い。高校、大学と刷り込まれたイメージが、今になって書き換わっていくことに新鮮さと寂しさをおぼえる。

フライパンでゴロゴロ炒ったのは良いのだが、いざ取り出したものの殻がいっこうに割れないことに気がつく。ペンチなどを持っておらず、食べることすら諦めようとしたのだが、最終的にワインの瓶で潰してむりやり中身を食べることに成功した。

ぎんなんを炒ったけど殻が堅くて、結局ワインの瓶で叩き割って食べました、なんてどうでもいい話多分この先誰かにすることはないだろう。だけど、この経緯に至るまでに確実に時間を費やした事実があって、そのことにリアルがあるような気がして歌にしてみた。

男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる/平井弘

文体の柔らかさに引き換え、歌の内容は不吉である。

なにを殺そうとしているのかは定かではないが、男の子特有の勇敢さ、無邪気さを、やや皮肉な視点で描いているようによめる。

女の子にいいところを見せたいのは、男の子の性だ。このどうしようもない動物的本能を、薄い理性の殻で覆ったつもりでいる男の子。

人間心理の本質をついた歌は時として残酷ですらある。

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