短歌で随筆

一日一首、紹介&雑感。『フリックでコラム』の副ブログです。

2020年08月

わが胸を夏蝶ひとつ抜けゆくは言葉のごとし失いし日の/寺山修司
今年もまた夏が終わろうとしている。まだ暑いのは暑いが、一応今日は8月最後だ。

夏に青春の思い出を重ねるのはなぜなのかわからないが、とにかく夏と言えば青春であり、夏の終わりは青春との別れである。

過ぎ去りし日へのノスタルジーを歌ったもののひとつ。倒置法ご効いていて、余韻が効いている歌である。

ゆがみたる花火たちまち拭ふとも無傷の空となることはなし/斎藤史
花火を空の傷に喩えた珍しい作品。

派手ながら一瞬で消える儚さは、日本人の心を引きつけて止まない。

見たものを感傷的な気持ちにさせる花火は、空に付けられた目に見えない傷として、永遠に残り続けるのだろう。

もろともに秋の滑車に汲みあぐるよきことばよきむかしの月夜つくよ/今野寿美
味わい深い一首。

景色を歌うようでいて、なにかの比喩のようでもあり、なにかを懐かしんでいるようでもある。

月夜をつくよと読ませるのも良い。

古典的な言葉遣いを巧みに取り入れた作品だ。

やはらかく二十代批判されながら目には見ゆあやめをひたのぼる水/米川千嘉子
若者が年長者から認められないのはいつの時代も同じだろうが、若者だけが見ている世界があるのもまたいつの時代もそうだ。

音楽やネット文化を見ていると既に次の世代の世界観で満ちていて、近頃ふと寂しくなるときがある。批判の標的にされるのも、それだけ異質な存在感があるからこそだ。

批判されたとはいうものの、「やわらかく」と前置きがあるのが良い。決して抑圧されているのではないことも、作者にはわかっているのだ。若さゆえの歯がゆさと希望が見えるみずみずしい一首だ。

契りおきしさせもが露を命にてあはれ今年の秋も去ぬめり/藤原基俊

息子の昇進を口添えしておいたのに、結局そのポストには就けなかったことを嘆いたもの。いつの時代も、親は子のためにいろいろとしてやりたいものなのだ。

歌のバックにあるエピソードまで知って初めて理解できる歌。百人一首には、歌そのものの表現や美しさで選ばれたものもあれば、清少納言や紫式部の歌やこの歌のように背景のエピソード込みで選ばれているものもある。その意味で、百人一首は過度に芸術的な扱いをするものでもないのだろう。

このページのトップヘ